高市内閣が発足した。日本初の女性総理だそうだ。まずはおめでたい。
しかし、今私が気になっているのは国民民主党の玉木雄一郎代表が「総理になるチャンス」を蹴った件だ。ネットでは「腰抜け」だの「逃げた」だの叩かれまくっている。
でも本当にそうなのか?ちょっと考えてみた。
「腰抜け」批判の裏側にある政局の真実
まず事実関係を整理する。
公明党が自民との連立を離脱した。で、立憲民主党が野党統一候補として玉木氏の名前を出した。玉木氏は「総理になる覚悟はある」と言いつつも、結局立憲との協議はまとまらず。自民と維新が連立を組んで高市内閣が発足。
結果、玉木氏率いる国民民主の支持率は9月から4ポイント急落して5%に。「チャンスを逃した」「決断できない政治家」と袋叩き状態だ。
ところが10月21日、国民民主の榛葉幹事長がラジオで本音をぶちまけた。
大切な玉木なんで。しかもたった50人の党がその他デカい政党を支えるって極めて不安定でしょ?玉木さんを総理にするっていう本気度が伝わってこなかった。与党との駆け引きで玉木さんをネタにしてるような感じがして
そう。これが全てだ。
もし玉木総理が誕生していたら?
ここで冷静にシミュレーションしてみる。
立憲の提案を受けて玉木氏が総理になった場合、どうなっていたか。まず参院で過半数がない。立憲とは安全保障政策もエネルギー政策も根本的に違う。国民民主が掲げてきた「減税」「手取りアップ」なんて立憲が飲むわけがない。
つまり何も決められない政権が出来上がる。立憲に主導権を握られて、国民民主の政策は一つも実現できない。完全にお飾り、ピエロ状態だ。
で、結局1〜2ヶ月で行き詰まって内閣不信任案。解散総選挙へ。対戦相手は支持率激高の高市早苗氏。玉木氏側は「何も実現できませんでした」としか言えない。おそらく惨敗だろう。
結果、国民民主は議席激減。玉木氏は「無能な総理」として歴史に刻まれる。政治生命終了。
一方、総理を断った場合はどうか。現状の通り支持率は4ポイントダウン。「逃げた」と批判される。確かにつらい。しかし党は生き残る。政治生命も続く。キャスティングボートは維持できる。政策実現の可能性も残る。将来のチャンスもある。
つまりどっちを選んでも負けなんだが、断る方が傷が浅いということだ。
「ネタにされる総理」という最悪のシナリオ
榛葉氏の言葉をもう一度見る。「玉木さんをネタにしてるような感じ」「半分笑いながら、総理になれなれ、みたいにはやし立ててきて」
これが真相だろう。立憲は別に玉木氏を総理にしたいわけじゃない。自民への圧力材料に使いたいだけだ。玉木氏が受けたら取り込んで主導権を握る。断ったら「国民民主が協力しない」と責任転嫁できる。どう転んでも立憲の得という構図だ。
もし玉木氏が受けていたら、短命政権で終わって何も実現できず、責任だけ押し付けられて「やっぱり国民民主じゃ無理だったw」と笑われる。これが「ネタにされる」ということだ。政治の笑い話として消費される。
玉木氏はこれを見抜いたんだと思う。
玉木氏最大の失敗は「決断」ではなく「広報」
個人的には今回の玉木氏の判断は正しかった。しかし説明がクソ下手すぎた。
実際に言ったことは「依然隔たりがある」だの「立民が現実的でない」だの。これじゃ言い訳にしか聞こえない。
言うべきだったのはこういうことだ。
「情けないことにまだ自分たちの勢力は自民と戦うには足らない。かといって、政策が全く違う野党と組んでもピエロになって、私のそして党の政策を何一つ達成できないだろう。だからこそ自身の夢である総理の座というチャンスをあえて捨てて、国民の皆様のためにこれまで通り一歩一歩王道をすすんでいきたい」
これを10月15日の時点で言えば良かった。そうすれば「玉木氏、よく決断した」「立憲ひどすぎる」「応援し続ける」となった可能性が高い。
でも実際には曖昧な態度を続けて、榛葉氏が10月21日にラジオで言うという。遅すぎる。しかも影響力の小さい媒体で。国民民主の広報力の弱さが露呈した。
政治家は「推し」である
ここで重要なことを言う。政治家というのは一種の「推し」だ。
有権者は政策だけで投票しない。応援したいと思う人に投票する。アイドルを推すのと同じ心理構造だ。日本人が「推したくなる」のは、正直で弱さも見せる人、逆境に立ち向かう人、自己犠牲を厭わない人、地道に努力する人だ。
もし玉木氏が私の提案したような言葉を発していればどうだっただろうか。私は完璧な「推し」になれたと思う。しかし、実際には曖昧な態度と他責の発言で煮え切らない印象を与えた。結果、「担降り」された。これが支持率急落の正体だ。
結論:負けるなら小さく負けろ
まとめる。
玉木雄一郎には二つの選択肢があった。総理になって大負けするか(党壊滅、政治生命終了)、断って小負けするか(支持率減、でも回復可能)。結果的に玉木氏は正しい方を選んだ。
しかし説明が下手すぎて、小負けで済むはずが中負けくらいになった。もったいない。それでも総理になって大負けするよりは遥かにマシではあるが。
今回のことは大きな勉強になるだろう。次はタイミングよく説明して、国民に直接語りかけて、「見せ方」を意識する。これができれば、まだまだやれる。
私は国民民主の支持者じゃないが、玉木氏には頑張ってほしい。日本の政治には現実的な中道政党が必要だ。そして私たち有権者も表面だけ見て叩くのではなく、深く考えてみることが大切だと思う。
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