プライベートクレジットファンドの正体|企業版・多重債務の構造

本日、共同通信は金融庁が「プライベートクレジットファンド」について、国内主要銀行を対象に取引の実態把握を始めたと報じた。来週のG7・G20財務相会議でも主要な論点になる可能性がある。

随分前からリスクは指摘されてきた。なぜ共同通信が今、改めて大きく報じたのか。

答えは単純で、「いつか来る」と言われていたものが実際に来たからだ。

そもそもプライベートクレジットとは何か

仕組みはシンプルだ。

銀行が「この企業にはリスクが高くて貸せない」と判断する。すると企業はファンドに駆け込む。ファンドは投資家から集めた金を銀行より遥かに高い金利で貸す。投資家には「高利回り」をうたって資金を集める。市場規模は1.8兆ドル(約286兆円)に上る。

本来、この仕組みには正当な存在理由がある。銀行融資では対応できない成長途上の企業や、規模が小さすぎて社債を発行できない中堅企業に資金を供給する。実際にこの資金で成長し、後に銀行融資に「卒業」した企業もある。

問題は、この仕組みが1.8兆ドルにまで膨張する過程で、本来の役割から大きく逸脱したことだ。

個人に置き換えると分かりやすい。

銀行の審査に通らない人が消費者金融に行く。返済が苦しくなれば、さらに条件の厳しいところに行く。段階を追うごとに金利は上がり、回復は難しくなる。

企業版のそれが、今のプライベートクレジットだ。

今、世界で何が起きているか

2026年に入り、この市場で「取り付け騒ぎ」に近い事態が起きている。

米大手ファンドのアポロでは、150億ドル規模のファンドに対し解約請求が11.2%に急増した。しかし実際に払い戻したのは要求額の45%。5%の上限を設けて、残りは「返せません」と突っぱねた。

アポロだけではない。ブラックストーンで8%、アレスで11.6%、ブルーオウルに至っては21.9%の解約請求が殺到した。

「高利回りで安全です」と言って集めた金が返せなくなっている。

震源地はソフトウェア企業だった

このニュースを見たとき、私は「どうせテック系の赤字スタートアップが焦げ付いたんだろう」と思った。

調べてみると、大体当たっていた。

バークレイズは「多くのファンドがソフトウェアなど少数のセクターに集中している」と指摘。モルガン・スタンレーは、ソフトウェア企業のストレスを主因としてデフォルト率が8%に達すると予測した。

業界では「SaaSpocalypse(SaaS黙示録)」という言葉まで生まれている。AIの台頭でSaaS企業のユーザー単位課金モデルが崩れ、テック集中型ポートフォリオで15〜20%の評価切り下げが発生している。

ファンドは「分散投資でリスク管理しています」と言っていたはずだ。実態はソフトウェアへの集中投資。アポロのCEO自身が「ポートフォリオの30%が一つの業界に集中していたら、リスク管理ができていない」と同業他社を批判している。自分たちの業界の話なのに、他人事のように。

延命治療で儲ける病院

この市場の本質を一言で表すなら、延命治療で儲ける病院だと思う。

プライベートクレジットの世界には「PIKローン」という仕組みがある。Payment In Kind。利息を現金で払えない企業に対し、「今は払わなくていい。その分を借金に上乗せしておく」という契約だ。

一見、温情に見える。しかし、実態は複利で借金が雪だるま式に膨らむ仕組みだ。

さらに厄介なのは、この仕組みがファンドの帳簿を粉飾する機能を兼ねていることだ。現金は一円も入ってこないのに、「利息収入」として計上される。投資家への報告書では「運用は順調です」と書ける。リスクモデル上も「デフォルトしていない」から資産価値は維持される。

数字と理論が、現実を覆い隠す「化粧道具」として使われている。

患者の容態は悪化している。しかし延命させている間は「治療費」が加算され続ける。そして患者の「死亡」を認定するとファンド自体の評価額が下がり、解約請求がさらに増える。だから「まだ大丈夫です」と言い続ける動機が構造的に組み込まれている。

業界用語では「amend and pretend(条件を変更して、問題がないふりをする)」。

回復の見込みがあるから延命するのか。手数料が入り続けるから延命するのか。その判断が貸し手自身に委ねられていて外部からは見えない。ここがこの市場の闇の核心だ。

「合意の上」という欺瞞

「プライベートクレジットは弁護士やアドバイザーが関与している。闇金とは違う」

こういう反論が聞こえてきそうだ。しかし、これは本質を外している。

闇金だって契約条件に嘘はつかない。書いてある通りの条件で貸す。ただ、追い詰められた借り手には「借りない」という選択肢が事実上ない。だから、どんな条件でも飲んでしまう。

だからこそ、個人向けには利息制限法や貸金業法で規制されている

企業はどうか。銀行に断られ、社債も出せない企業がプライベートクレジットに駆け込むとき、条件を断れるだろうか。後述するLBOで買収されて借金を背負わされた企業に至っては、そもそも自分で借りることを選んですらいない。

形式的な「合意」は成立している。しかし実質的な選択の自由があったかは別の話だ。

個人向けには規制がある。企業向けにはない。金融庁が今になって動き出したのは、「プロ同士の自己責任」という建前がもう通用しないと認め始めたということだろう。

LBOという「他人のふんどし」

プライベートクレジットの話は、必ずLBO(レバレッジド・バイアウト)に行き着く。

LBOとは、ファンドが企業を買収する際、買収資金の大部分を借金で賄い、その借金を買収された企業自身に背負わせる手法だ。

例えるなら、あなたの家を買った人が、その家の設備を売り払い、入ってくる家賃を自分のローンの返済に充てているようなものだ。買った側の財布は痛まず、家の中身だけが空っぽになっていく。

米国ではこの手法でトイザらスが破綻した。2005年にKKRやベインキャピタルなどが66億ドルで買収。うち50億ドル以上が借金だった。

年間約4億ドルの利払いに追われ、Amazonに対抗する投資もできず、2017年に破産。ファンド側は約4.6億ドルの手数料を回収済みだったが、3.3万人が職を失った。

J.Crewも同じ構図だ。2011年に30億ドルのLBOで買収され、さらに約8億ドルの追加借金をファンドへの配当に充てられた。最終的に2020年、17億ドルの負債を抱えて破産した。

成功すればファンドが総取り。失敗すれば企業と従業員が路頭に迷う。ファンドの持ち出しは限定的。この非対称性がLBOの正体だ。

日本にも同じ構造が広がりつつある

日本は今、米国で10年前に起きた「PEブーム」を追いかけている段階にある。そして米国では今まさに、そのツケが回ってきている最中だ。

KKRのCEOは「世界の中でPE事業のリターンが最も高いのは日本だ」と公言した。円安で日本企業が安く買え、低金利で買収資金も安く借りられる。彼らにとって今の日本は最高の市場だ。

富士ソフト(約6000億円、KKR)、東芝(約2兆円)、大正製薬(約7000億円)、ベネッセ(約2000億円)。名の知れた企業が次々と非公開化されている。

誤解のないように言っておくと、これらの案件が全てトイザらスのような破綻に至ると言いたいわけではない。非公開化によって経営改革が進み、企業価値が上がるケースも実際にある。

問題は、うまくいかなかった場合のリスクの配分が、最初から非対称に設計されていることだ。

富士ソフトの買収では、KKRとベインキャピタルが半年以上にわたって争奪戦を繰り広げた。買収価格は8800円から9850円にまで吊り上がり、KKRはベインの行為を「暴挙」と呼び、秘密保持契約違反を告発した。

獲物を奪い合うハゲタカ同士の醜い争い。そして買収価格が上がるほど、その借金を背負うのは富士ソフト自身だ。

金融庁は2025年に「国内LBOローンに係るモニタリングレポート」を公表し、主要行だけでなく地域銀行にも立入検査を行っている。リスク管理の経験が十分とは言えない地方銀行までがLBOローンに参入している現状を当局は危惧している。

米国で構造的な欠陥が露呈している。その同じ構造が日本でも急速に広がっている。結末が同じになるとは限らないが条件は揃いつつある。

こんな商売に持続性があるはずがない

ここで断っておく。今回の危機がリーマンショック級のシステム崩壊に発展するかと言えば、現時点ではその可能性は低い。

FRB議長のパウエルも「金融システム全体を脅かすものは確認していない」と発言しているし、混乱は主にリテール向けファンドに集中している。

しかし、危機の「規模」が限定的であることと、「構造」に欠陥があることは、まったく別の話だ。

この市場の根本的な問題は、好況時にしか成り立たないビジネスモデルを、あたかも全天候型の安全な投資であるかのように売ってきたことにある。

プライベートクレジットが急拡大した2010年代後半から2020年代前半は金利がゼロに近く、倒産率も低く、資金が余っていた。この環境では全員が得をしているように見えた。

しかしそれは、穏やかな海で「うちの船は沈まない」と言っているだけだ。嵐が来たことがなかっただけだ。

そして嵐が来た。「外的ショックのせいだ」と業界は言うだろう。しかし、引き金を引いただけで崩れるなら、そもそも構造が脆かったということだ。融資基準の緩和、セクターへの集中、流動性のミスマッチ、不透明な評価慣行。全て業界自身が選んだ行動の帰結だ。

追い詰められた相手に高利で貸し、延命しながら搾り取る。この構造に持続性があると思う方がおかしい。きっかけの種類は偶然でも、露呈すること自体は必然だった。

さいごに

最も懸念されるのは、問題が「解決」されるのではなく「移動」することだ。

リーマンショック後に銀行規制が強化された結果、リスクは規制の緩いプライベートクレジットに移動した。今回ここが規制されれば、また別の場所に移る。高いリターンを求める欲望がある限り、リスクはどこかに必ず蓄積される。

そしてそのリスクの「金主」には、私たちの年金や保険料を預かる機関投資家が含まれている。

ファンドは最初からリスクを見越した利益設計ができている。ダメージは限定的だ。末端で被害を受けるのはスキームの設計に関与していない人々だ。企業で働く従業員、取引先の中小企業、そして年金を待つ私たちだ。

今日の金融庁の動きが、「墜落の衝撃を和らげる」後追いで終わるのか。構造そのものに切り込むのか。来週のG7・G20の議論を注視したい。そして、次のリスクの「移動先」がどこになるのかも。

世情観察
執筆者
メディウス

日常生活の中で感じた世情や政治経済について綴っています。政治に関してはかつては過激な右寄りでしたが、今はさまざまな経験を経てバランスの取れた視点を目指しています。また、私自身が低年収層の当事者として、庶民目線での発信を心がけています。2級FP技能士、宅地建物取引士。

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