パキシルを2年飲んだ私が11年後に知った事実|うつ病治療の代償と選択肢

【2014→2025 アップデート記事】

2002年頃、私はうつ病と診断された。

処方されたのはパキシルというSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)だった。約2年間飲み続け、自己判断で減薬してやめた。あれから約11年。あの薬について、当時知らなかった事実が次々と分かった。

発症から診断まで

仕事中に急に胸が苦しくなり、手足がしびれた。病院で検査したが異常なし。数日後、運転中に頭痛で意識を失いかけた。脳の検査も異常なし。寝ている最中に電気が体中を走るような感覚で目が覚め、異常な汗と胸の苦しさで救急車を呼んだ。これも異常なし。

こんな発作が数日おきに起きるようになり、仕事に行けなくなった。幻覚や幻聴まで現れ、何かに狙われているという強迫観念で刃物を抱いて寝ていた時期もあった。

何度も通った病院の看護師が「精神的なものかもしれない」と心療内科を紹介してくれた。診断はうつ病。発症から診断まで、何ヶ月も原因不明のまま苦しんだ。

原因は、格差とプライドと将来への不安だったと思う。学生時代は成績も良かったが、自分より成績の悪かった友人が待遇の良い企業に就職し、何倍もの収入を得ていた。将来性のない仕事でいつ職を失うか分からない不安。妬みと僻みと恐怖が、私の扁桃体を暴走させた。

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パキシルの2年間

発作時用のソラナックスと、治療用のパキシル。この二つが処方された。

パキシルを飲むと頭がぼーっとして何も考えられなくなった。やる気が完全に消え、症状は確かに治まったが、生きているのか死んでいるのか分からない状態だった。薬が効いている間はぼんやりして、眠気が来れば寝るだけ。

しかも薬が切れるとめまい、頭痛、吐き気が襲ってくる。薬なしでは生活できない体になっていた。

ある時、妻が医師に「いつまで飲み続ければいいんですか」と聞いた。医師の答えは「いつまでかは分からないが、仕事に戻るのは非常に厳しい。精神障害者保健福祉手帳の申請をすれば生活の助けになる」。妻が泣いていたのを覚えている。

貯蓄があったので手帳の申請はしなかったが、さらに1年後には貯蓄はほぼゼロになった。

自己減薬という賭け

このままではいけないと思った。自分一人ならどうなってもいいが、家族がいる。薬で思考が停止したまま社会復帰はできない。

医師に減薬を相談したが「ずっと飲み続けなければいけない」と大反対された。

だが私は自分でカッターで錠剤を削り、少しずつ少しずつ量を減らした。約2ヶ月でやめることができた。

これは結果的に正しい判断だった。しかし当時はそんな確信はなく、ただの賭けだった。

11年後に知ったパキシルの真実

11年経って調べて分かったことがある。パキシルは、SSRIの中でも特に離脱症状が強い薬だった。

血中濃度の変化が激しく、増量すると一気に上がり、減量すると一気に下がる。「シャンビリ感」と呼ばれる頭に電気ショックが走るような感覚は、パキシル特有の離脱症状として知られている。離脱症状が月単位で続くこともある。

私が経験した「薬が切れるとめまい、頭痛、吐き気」は、まさにこの離脱症状だった。

医師が「ずっと飲み続けなければいけない」と言ったのは、離脱症状の強さを知っていたからかもしれない。しかし、それを患者に説明しないのは問題だ。「この薬は離脱症状が強い。やめる時は慎重に減薬する必要がある」と最初に言ってくれていれば、あの2年間はもう少し違ったものになっていただろう。

思考の「詰まり」は消えない

あの薬をやめてから11年以上経つが、思考時に「詰まり」が出る感覚がある。以前よりも頭がスムーズに回転しない。

2025年2月、スウェーデンのカロリンスカ研究所が発表した研究がある。認知症患者約18,740人を対象にした調査で、3種類のSSRI使用者に年間平均0.39ポイントの認知機能低下が観察された。

ただし注意が必要だ。この研究の対象は認知症患者であり、健常者や一般的なうつ病患者への影響とは異なる可能性がある。研究者自身も相関関係であり因果関係を証明したものではないと述べている。パキシルは直接この研究に含まれていない。

公平に言えば、健常者を対象にした研究では「SSRIの長期服用が認知機能を必ずしも低下させるわけではない」とも報告されている。

しかし私の実感として、「詰まり」は確かにある。これが薬のせいなのか、うつ病そのもののせいなのか、単なる加齢なのか、今となっては切り分けられない。切り分けられないこと自体が、この問題の厄介さだ。

2025年、薬以外の選択肢

11年で、うつ病の治療法は進化した。

2019年、rTMS(反復経頭蓋磁気刺激)が日本で保険適用になった。磁気で脳を直接刺激する治療法で、薬を使わない。副作用も少ない。

同じ2019年にはエスケタミン点鼻薬が米国で承認され、翌年日本でも承認された。従来のSSRIとは全く異なる作用機序を持つ。

認知行動療法のオンライン化やデジタル治療アプリも保険適用が広がっている。

もし2002年の私にこれらの選択肢があったら、パキシルを飲まずに済んだかもしれない。少なくとも、選択肢を知ったうえで判断できた。

伝えたいこと

私はうつ病の治療を否定しているわけではない。パキシルを全否定しているわけでもない。あの薬がなければ、最悪の時期を乗り越えられなかった可能性もある。

しかし、代償はあった。2年間の社会からの断絶。貯蓄の消滅。そして11年経っても残る思考の「詰まり」。

もしあなたがこれからうつ病の治療を始めるなら、薬を飲む前に他の選択肢も調べてほしい。医師に「この薬の離脱症状はどの程度ですか」と聞いてほしい。rTMSや認知行動療法という選択肢があることを知っておいてほしい。

そして、もし今まさに薬をやめたいと思っているなら、絶対に自己判断で急にやめないでほしい。私は結果的にうまくいったが、それは運が良かっただけだ。必ず医師と相談しながら、少しずつ減薬してほしい。

あの2年間は人生で最も辛い時期だった。しかし立ち直れたのは、貯蓄があったこと、養わなければならない家族がいたこと、そして「自分は他人より劣る存在だ」という事実を認められるようになったこと。この三つだった。

家族の中には当時飼っていた猫もいる。何も言わず隣にいてくれるだけの存在が、あの頃の私には必要だった。その猫はもう寿命で逝ってしまったが、感謝している。

プライドを捨てたら、楽になった。それが私の場合の答えだった。

本記事は筆者個人の体験に基づくものであり、医療上のアドバイスではありません。うつ病の治療については、必ず専門の医療機関にご相談ください。
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執筆者
メディウス

日常生活の中で感じた世情や政治経済について綴っています。政治に関してはかつては過激な右寄りでしたが、今はさまざまな経験を経てバランスの取れた視点を目指しています。また、私自身が低中所得者層の当事者として、庶民目線での発信を心がけています。趣味は構造分析・理解、プログラミング。

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