2013年、ジョナサンの「フォアグラ大放出」
2013年8月、ファミレスチェーン「ジョナサン」がフォアグラを使ったメニューを全国300店舗で展開すると発表した。
フォアグラ&ハンバーグ:990円
世界三大珍味のフォアグラがファミレス価格で食べられる。当時、多くのメディアが「手の届く贅沢」として好意的に報じていた。
私も最初は「安く食べられて素晴らしい」と思った。
しかし、ある記事のコメント欄で紹介されていた記事を読み固まってしまった。
当時のフォアグラ製造方法
フォアグラは、ガチョウやアヒル(カモ)に強制給餌(ガヴァージュ)を行って作られる。
具体的な製造工程
- 生後81日のカモやガチョウに対し、2~3週間の強制給餌を実施
- 50cmの鉄パイプを口から胃まで差し込む
- とうもろこしの粉と油の混合物を、鳥の体重の1/3~1/4の量を流し込む
- 1日2~3回、これを繰り返す
- 肝臓が通常の10倍に肥大化(脂肪肝状態)
鳥たちへの影響
- 肝臓が他の器官を圧迫し、呼吸困難
- 自分の体を支えることも困難に
- パイプによる食道の損傷
- 死亡率は通常の20倍
私はフォアグラ製造動画を見て、吐き気がした。そして自然と涙が出た。
当時の私の葛藤
記事を書いた時、私はこう考えた。
最終的には命を奪い食べることに変わりないのだから、プロセスの問題だけではないのかと言われれば、それを明確に否定することはできない。しかし、この生産方法は道義的な問題(動物虐待)でヨーロッパのほとんどの国で生産を禁止されている。
そして、こう締めくくった。
12年後の世界:規制は広がったのか
世界の動き
年 | 国・地域 | 内容 |
---|---|---|
2012年 | カリフォルニア州 | 販売禁止(法的争いあり) |
2019年 | インド | 輸入禁止(世界初) |
2019年 | ニューヨーク市 | 2022年から販売禁止予定(後に差し止め) |
2022年 | ニューヨーク市 | 州法違反として禁止条例が差し止め |
2023年 | ピッツバーグ市 | 販売禁止 |
2022年 | マルタ | 生産禁止 |
禁止の動きは出ているが、法的争いも多く、完全施行には至っていないケースが目立つ。
12年後の日本のフォアグラ事情
日本の輸入量は激減している
年 | 輸入量 | 犠牲羽数(推定) |
---|---|---|
2008年 | 約263,000kg | 約438,000羽 |
2015年 | 140,706kg | 234,510羽 |
2019年 | 71,744kg | 119,573羽 |
2021年 | 約44,000kg | 約73,000羽 |
2024年 | 9,831kg | 16,385羽 |
2008年比で約96%減少。2024年は1万キロを下回った。
減少の理由
- 鳥インフルエンザの影響
- 2024年、フランスで鳥インフルエンザが発生
- 家禽へのワクチン接種により、日本への輸入がストップ
- 消費者の意識変化
- 製造方法を知った人の63.3%が「食べたくない」と回答(2014年調査)
- SNSでの情報拡散により認知度向上
- 企業の自主的な取り扱い停止
- 小泉環境大臣(当時)も「フォアグラは食べないようにしている」と発言(2020年)
しかし、規制はゼロ
日本では生産禁止も販売禁止もない。
ジョナサンを含むファミレスでは、過去に何度もフォアグラメニューを展開してきた(最新の2024-2025年情報では確認できず)。
培養フォアグラという選択肢
12年前には存在しなかった選択肢が今はある。
日本の挑戦:インテグリカルチャー
2019年8月:世界初の「食べられる培養フォアグラ」開発成功
- アヒル肝臓由来の細胞を培養
- 強制給餌なし
- 食品成分のみで培養
試食した未来食研究家のコメント
コクと甘みがバランス良く感じられ、とにかく良い。油分はそんなに感じないが、少量でも十分口の中で広がりを感じる。甘みが優しくふわっと広がる、ピュアで芳醇なフォアでした。繊細だけれど存在感がしっかりあり、感動した。
2023年2月:アヒル肝臓細胞を培養した食品素材化に成功
- 本物とは異なり、血管や筋などが含まれない純粋な細胞の塊
- 「存在感の強い味」と好評
- ただし、本物のフォアグラと全く同じ食感や風味の再現は難しい
目標
- 2021年:高級レストランでのテスト提供
- 2025年以降:レストラン提供開始
- 2027年以降:一般販売
(※2025年10月時点で、一般販売には至っていない模様)
植物性フォアグラも登場
- イギリスでは「Faux gras(フォックスグラ)」が受賞
- その他複数の植物性フォアグラが販売中
変わらないもの、変わったもの
変わらないもの
・製造方法
強制給餌なしでフォアグラは作れない。フランスのフォアグラ専門家委員会(CIFOG)代表も明言している。
・日本の法規制
生産禁止も販売禁止もない。
・倫理的議論
12年前も今も、賛否両論。
変わったもの
・消費量
2008年比で96%減少。「なくても困らない」ことが証明された。
・代替品の登場
培養フォアグラ、植物性フォアグラという選択肢が生まれた。
・消費者の意識
製造方法を知る人が増え、拒否する人も増えた。
・世界の潮流
欧米では規制の動きが加速(ただし法的争いも多い)。
2025年版の結論
12年前、私は「フォアグラはこのようにして作られているという事だけは知っておくべきではないだろうか」と書いた。
今も考えは変わらない。
知らずに食べるのと、知った上で食べるのは違う。
そして今、選択肢は増えた。培養フォアグラという、動物を苦しめない道も開けつつある。
人間は業の深い生き物だが、その業と向き合い、変わろうとする生き物でもある、と信じたい。
もし同じ味が動物を苦しめずに作れるなら、そちらを選ぶ時代が来るのではないだろうか。
私は今でもフォアグラを食べたいとは思わないが、食べる人を否定もしない。
ただ、知った上で選んでほしい。