レアアースの「大本営発表」を疑え|脱中国依存の現実

「南鳥島でレアアース泥の試掘開始!日本のEEZに眠る宝の山がついに動き出す!」

2026年1月11日、地球深部探査船「ちきゅう」が静岡県・清水港を出航した。

SNSでは「これで中国依存から脱却だ」「中国はもう怖くない!」という歓喜の声が上がり、関連銘柄の株価も跳ね上がっている。

しかし、これは冷静な直視を拒む「すり替え」に過ぎない。

レアアース問題の本質は「どこにあるか」ではない。「誰が精錬できるか」なのだ。

数字が語る現実

まず、冷静に数字を見てほしい。

鉱石生産シェア(2024年)

国・地域 シェア 生産量
中国 70% 約27万トン/年
その他 30% 約12万トン/年

採掘では2.3倍の差。これだけ見ると「他国も頑張っている」と思えるかもしれない。

しかし、精錬になると景色が一変する。

精錬シェア(2024年)

国・地域 シェア
中国 91%
その他 9%

10倍の差だ。さらに絶望的なのは、これが単なる「コスト差」ではないことだ。

中国は近年、レアアースの精錬・加工技術の輸出を法律で禁止した。他国が追随しようにも、「教科書(技術)」も「道具(装置)」も手に入らないよう、特許と法律で徹底的に封じ込めている。

つまり、世界がどれだけ鉱山を開発しても、精錬という「ブラックボックス」を中国に握られている限り、結局は中国の手のひらの上にいるということだ。

IEA(国際エネルギー機関)の予測では、2040年時点でも、中国のレアアース精錬シェアは78%を維持するとされている。15年後も構造は大きく変わらないだろう。

なぜ中国だけが精錬できるのか

レアアースの精錬は大量の酸やアルカリを使い、放射性物質を含む廃棄物を出す。環境負荷が極めて高い

中国がこの分野で圧倒的なシェアを持てたのは、複合的な要因がある。

1. 地質的幸運

中国南部には「イオン吸着型鉱床」という特殊な鉱床がある。

ここからは重希土類(ジスプロシウム、テルビウムなど)が効率よく採れる。重希土類は磁石の耐熱性に不可欠で、他の地域ではほとんど産出しない。

2. 30年以上の戦略的投資

鄧小平は1992年の南巡講話の頃、「中東有石油,中国有稀土(中東に石油があるように、中国にはレアアースがある)」と述べたとされる。

出典は曖昧だが、以来、中国が採掘から精錬、製造までの一貫したサプライチェーンを国家戦略として構築してきたのは事実だ。

3. 環境コストの外部化

長年にわたって環境基準や労働条件を緩くしてコストを抑えてきた。地域住民の健康被害や土壌汚染を、いわば社会に転嫁してきた側面がある。

2014年にNHKで見た中国の水汚染|現在のレアアース問題との共通点
2014年にNHKドキュメンタリー『水質汚染と闘う~中国・ガン多発村で何がおきているのか』を見てから11年。中国の政策転換や水汚染と現在のレアアース問題の共通点、私たちが払う「見えないコスト」というグローバル経済の構造的問題を考える。

先進国が同じことをやろうとすると、環境アセスメント、廃棄物処理、労働安全基準を守る必要がある。陸上で環境基準を守りながら精錬所を運営すると、コストは中国産の数倍になるとされる。

マレーシアでオーストラリア企業Lynasが精錬所を作ろうとした際、地元の反対運動で難航した例がある。「クリーンエネルギー」のためのレアアースが、環境破壊的な方法でしか経済的に精錬できないという皮肉な構造がある。

南鳥島の海底資源:希望か幻想か

南鳥島周辺の海底には、確かに大量のレアアースを含む泥が存在する。有望海域(2,500平方キロメートル)だけで埋蔵量は1,600万トン超。世界第3位の規模だ。

しかし、水深6,000メートル。富士山を1.5個積み上げた深さである。

開発スケジュール

時期 内容
2026年1月 JAMSTECによる試掘開始(接続・採鉱試験)
2027年1月 1日350トン規模の採鉱・揚泥試験
2028年度以降 商業生産に向けた検討

2026年1月から試掘が始まる予定だが、これは「技術実証」の段階であって、商業化の見通しは立っていない。

コスト比較

供給源 コスト(推定)
中国産レアアース 約3,600ドル/トン
海底採掘(南鳥島) 7,000〜70,000ドル/トン

採掘だけで2倍から20倍。これに精錬費用などが上乗せされる。どう考えても経済合理性はない。

「埋蔵量がある」ことと「使える」ことは、まったく別の話なのだ。南鳥島の資源は、あくまで「長期的な保険」であって、今日明日の中国依存を解決する切り札ではない。

希望の光:レアアースフリー技術

では、絶望的かというと、そうでもない。

第一稀元素化学工業のカルシア安定化ジルコニア

2025年10月、第一稀元素化学工業が「レアアースフリーのセラミックス」を発表した。

従来、セラミックスの安定化にはイットリウム(レアアースの一種)が必要だったが、これをカルシア(酸化カルシウム)で代替する技術を実用化した。

項目 イットリウム版 カルシア版(新技術)
強靭性 極めて高い やや劣る
熱耐性 非常に高い 極めて高い
調達リスク 大(中国依存) ゼロ
コスト 高い 安い

同社独自のATEDZ技術により、従来より約200℃低い1,200〜1,300℃での低温焼結を可能にした。これがカルシア安定化を実用化する鍵となった。

用途は酸素センサ、歯科材料、半導体製造装置部品など。これは本物の突破口といえるだろう。

ただし、冷静に見る必要もある。セラミックスは日本のレアアース需要の5〜10%程度。本丸は「磁石」なのだ。

磁石の壁:なぜネオジムは代替できないのか

EVモーター、風力発電、ロボット、防衛装備。これらに使われるネオジム磁石こそが、最も中国に依存している分野であり、最も代替が難しい。

磁石の性能比較

種類 最大エネルギー積 レアアース 現状
フェライト磁石 40 kJ/m³ 不要 量産中(性能不足)
アルニコ磁石 80 kJ/m³ 不要 量産中(性能不足)
サマリウムコバルト磁石 240 kJ/m³ 必要(Sm) 高価
ネオジム磁石 400+ kJ/m³ 必要(Nd, Dy) 最強・不可欠

フェライトとネオジムでは10倍の性能差がある。

フェライトでネオジムの代わりをしようとすると、モーターを10倍大きくするか、出力を10分の1に落とすか、という話になる。現実的ではない。

磁石の代替技術:どこまで進んでいるか

1. 重希土フリー磁石(トヨタ、Honda)

2010年のレアアースショック後、日本企業が開発に成功した技術だ。

従来、ネオジム磁石の耐熱性を上げるにはジスプロシウム(Dy)という希少なレアアースが必要だった。これを以下のような結晶構造の工夫で不要にした。

  • 結晶粒の微細化(従来の1/10以下)
  • 粒界の最適化(二層構造)
  • ランタン・セリウムでネオジムの一部を代替

この磁石は、すでに量産EVに搭載されている。最も供給リスクの高いDyへの依存を減らせた点で大きな前進だ。

ただし、ネオジム自体は依然として必要であり、「完全脱レアアース」ではない。

2. Fe-N磁石(Niron社・米国)

完全にレアアースを使わない磁石として注目されている。

項目 数値
性能 ネオジムの80〜90%
現在の生産量 年間5トン(パイロット)
2026年目標 年間1,500トン
世界のネオジム磁石需要 年間10万トン以上

性能80〜90%は悪くない数字に見える。しかし、EVやロボットの設計者からすると、これは「モーターを10%大きくする」か「航続距離・出力が10%落ちる」ことを意味する。製品の競争力に直結する。

そして量産の壁がある。2026年現在の生産能力は世界需要のわずか1.5%程度だ。

3. Fe-Ni超格子磁石(デンソー)

原子を規則正しく配列させた超格子構造で高性能を狙う。理論的にはネオジム並みの性能が出せる可能性がある。

ただし、実用化は5〜10年後。製造にはナノレベルの精密制御が必要で、量産コストが課題だ。

リサイクル:都市鉱山は救世主になれるか

使用済み製品からレアアースを回収するリサイクルも有望だ。

NEDOのリサイクル事業目標

項目 内容
目標 2040年需要の約4割をリサイクルで賄う
技術開発 テルビウム/ジスプロシウム分離係数2倍向上
現状 輸入量の数%程度

技術的には進展している。福岡県では使用済み蛍光管からレアアースを回収・再資源化する産学官プロジェクトが事業化されている。

課題は回収インフラと経済性だ。消費者の手元にある製品を集め、分解し、精製するコストは、鉱石から精錬するより高くつくことが多い。

供給源の多様化:中国以外からの調達

日本政府と企業は、中国以外からの調達ルート確保にも動いている。

主要プロジェクト

プロジェクト 生産能力 日本との関係
Lynas 豪州・マレーシア NdPr 12,000t/年 双日・JOGMEC出資、日本需要30%目標
MP Materials 米国 NdPr 6,000t/年 調達交渉中
Caremag フランス 精錬事業 JOGMEC・岩谷産業出資、日本需要20%目標

Lynasは2025年から重希土類の生産も開始する予定だ。日本の需要の30%を賄う目標を掲げている。

ただし、注意が必要だ。

これらのプロジェクトも、精錬の一部を中国に依存しているケースがある。「採掘は豪州、精錬は中国」という構造では、本質的な脱依存にはならない。

2010年の教訓と、繰り返される失敗

実は、日本には「危機をバネにした」成功体験がある。

2010年、尖閣沖漁船衝突事件を契機に、中国が日本へのレアアース輸出を事実上制限した。日本の産業界はパニックに陥り、官民挙げての対策が始まった。

NEDOの「希少金属代替材料開発プロジェクト」に予算が集中し、トヨタやHondaの重希土フリー磁石が実用化された。皮肉なことに、中国の強硬策が日本の技術革新を加速させた。

しかし、その後どうなったか。

2010年代半ば以降、レアアース価格が落ち着くと、危機感が薄れた。一部の代替技術開発は「採算が合わない」として縮小された。中国からの輸入に回帰する企業も出てきた。

そして現在、再び中国が輸出規制を強化し、「あのとき開発した技術が命綱になった」という状況に戻っている。

「喉元過ぎれば熱さを忘れる」を地で行っているのだ。

外交面でも疑問が残る。

2010年に首根っこを掴まれていることが露呈したのに、その後15年間で精錬能力も戦略備蓄も大して強化しなかった。それなのに、対中姿勢だけは強気になっていった場面もある。

交渉カードを持たずに喧嘩を売れば、相手は「じゃあカードを切ってやろうか」と思うだけだ。力を持たないうちに強気に出るのは、外交の悪手でしかない。

全方位で少しずつ

では、どうすればいいのか。

結論から言えば、「これさえあれば大丈夫」という銀の弾丸は存在しない。

中国の戦略は巧妙だ。イットリウムを代替されたら、ネオジムを絞ればいい。代替技術が育ってきたら、価格を下げて採算を潰し、撤退したところで値上げする。これは過去30年の常套手段だ。

だからこそ、「全方位で少しずつ」しかない。

脱依存ロードマップ

手段 カバー率 時間軸 評価
レアアースフリーセラミックス 5-10% 即時 ◎ 実用化済み
重希土フリー磁石 一部代替 即時 ○ 量産中
リサイクル 20-30% 中期 ○ 技術あり、インフラ課題
Lynas等からの調達 20-30% 短中期 ○ 進行中
完全REフリー磁石 未知数 長期 △ 量産・コスト課題
海底採掘(南鳥島) 保険 長期 × 商業化困難

各分野で2割、3割と削っていき、合計で5〜7割の自給を目指す。ここまで到達して初めて、「止めても効かない」と示すことができる。

直視すべき問い

最後に、不都合な問いを投げかけたい。

「中国依存を減らすために、私たちはいくら払う覚悟があるのか」

レアアースフリー技術も、代替供給源も、海底採掘も、すべて中国産より高くつく。その差額は、最終的には製品価格に転嫁される。EVが高くなる。スマホが高くなる。電気代が上がる。

さらに、精錬を国内でやるなら、環境負荷も受け入れなければならない。「中国の環境破壊は批判するが、自国では嫌だ」では筋が通らない。

2010年の教訓は、「危機が去ると忘れる」ということだった。今回も同じ轍を踏むのだろうか。

レアアース価格が落ち着いたとき、それでも高いコストを払い続ける覚悟があるか。国民がそれを支持するか。政府がそれを説明できるか。

技術の問題ではない。意志の問題だ。

「南鳥島で資源発見!」という見出しに踊らされるのではなく、この不都合な現実を直視できるかどうか。それが問われている。

付録:現実的な評価

項目 評価
完全な脱中国依存 不可能(2040年でも中国78%予測)
現実的な目標 依存度91%→70%程度への軽減
最大のボトルネック 精錬能力の構築
最も有望な短中期施策 リサイクル・重希土フリー磁石・Lynas等調達
海底資源の位置づけ 長期的な保険・オプション
現在の外交的立場 依然として弱い
世情観察
執筆者
メディウス

日常生活の中で感じた世情や政治経済について綴っています。政治に関してはかつては過激な右寄りでしたが、今はさまざまな経験を経てバランスの取れた視点を目指しています。また、私自身が低年収層の当事者として、庶民目線での発信を心がけています。2級FP技能士、宅地建物取引士。

メディウスをフォローする
タイトルとURLをコピーしました